「車買ったから会いに行くわ」

 

半年ぶりに連絡が来たと思ったら、唐突にそんなことを言い、会いに来てくれた先輩がいる。

 

最後に見た彼女の車は山口ナンバーの実家から持ってきた青いフィット。

失礼ながら、少しレベルアップした車を買ったんだろうと、とりあえず家で待っていた。

 

そうしたら、低くて渋い、「ブオーーン」という音が窓の外から聞こえてきた。

良い音だな〜と思ってなんとなく聞いていたら、まさかのまさかで彼女の車だった。

 

彼女のお金事情も色々聞いていたので、一切想像もしていなかった、マスタングという車に乗ってやってきた。

 

ちなみに彼女は宮大工をしていて、ふたつ上で、私のタイプな外見をしている。

 

「わしは夢を買ったんや！」

 

めちゃくちゃかっこいい。生き方が渋すぎる。

そもそも、25歳女性にして一人称が「わし」の時点でなんだか他の人と違う生き方をしていることがうかがえる。

 

実際、車のローン、保険、維持費、ガソリン代、駐車場代、合わせて奨学金と家賃を払えば手元に残るお金は2万円ほど。

同じく車が好きな宮大工の彼氏とのデートはと聞けば、ディーラー巡りらしい。

 

まさに夢を買っている。夢に全てを賭けていると言っても良いかもしれない。

貯金がなくなれば精神が不安定になるような私とは全く逆の存在である。

本当に本当にかっこいい。

 

なんでこんな話をしたかというと、この物件の話を聞いた時、彼女の存在がパッと頭に浮かんだからだ。

 

駐車場があって、2K、風呂とトイレは分かれていて、庭がある。

駐車場込みでも月額4万2000円と、お財布にかなり優しい物件だと感じた。

これだけ好条件が揃うと、実際はボロボロなんじゃないかと不安になる方もいるかもしれないけれど、私の印象は綺麗だった。

 

奥の部屋は無垢の木が敷かれていて、踏み心地も気持ちいい。

庭から入る柔らかい日差しも気分が良かった。

そして、そこそこ広い。

 

極限まで攻めるなら、2人で住んでもいいんじゃないかとまで思っている。

 

それと、この物件に行く途中の道はまさにドライブ気分。

緩やかにうねる宝池通は気持ちいのでおすすめ。

家がずらっと並ぶ中で、物件の100m手前くらいから木がだいぶ立ち始めるこの森感も良い。

途中にあった、紅葉づいてきた公園の雰囲気も、わざわざ車を停めて歩きに行ったくらいには良い。

 

夢見る少女の秘密基地。

彼女が愛車に全てをかけて、財布を労った住処の選び。

それでもって、気持ちよく、悪くないなって思える暮らしが見つかりそうなこの物件。

 

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