妄想物件物語

MACHIYA

物語⑩ 相田家の場合 滋賀県大津市プロジェクト 最終話

今回の登場人物
相田はるか(10)
小学校4年生。
両親の影響で自然が大好きな、心優しい女の子。

悠(6)
はるかの弟。明るくて元気な男の子。
保育園の年長。来年1年生になる。

お父さん(40)
京都のデジタルマーケティング企業で働いている。
キャンプが好き。

お母さん(39)
フリーランスのデザイナー。
娘の気持ちをとても大事にしている。涙もろい。

小学4年生になったはるかは、新しいクラスに馴染めず、
学校へ行くことがしんどく感じている今日この頃。
そんな娘の様子を見ていた父はある日、学校を休んで父がはるかを連れてとある物件を見に行く。
その帰り道の車内で、思いを馳せる親子が見る未来とは…。

 

未来に向かって楽しく暮らしていこう。

 

帰りの車の中で、わたしは大工さんの言葉を思い返していた。

「ここで好きなこと、なんでもしたらええ」

すごい、と思った。
あの家なら、本当にいろんなことができそうな気がしたから。
もしあそこに住んだら、どんなことをしよう?
学校の裏庭で、教室で、息をひそめて過ごしていたときのモヤモヤがうそのように消えて、心が晴れわたっていくのがわかった。

「びっくりした?」

運転しているお父さんに尋ねられて、わたしはうなずく。

「なんで引っ越そうと思ったん?」

もしかしてわたしのせいなんじゃないか……そう思っていたら、お父さんはその考えを否定するように言った。

「最近お父さんの会社な、リモートワークって言って、家で仕事できるようになってん。お母さんももともと家で仕事してるし、そしたら別に、今の場所にこだわる理由もそんなになくなってな」

「ふうん」と言って、外を見る。すると大きな湖が見えて、わたしは思わず「うわあ!」と声を上げた。
お父さんは「琵琶湖や」と得意そうに言う。

「めっちゃ近いやろ。あっこの家から歩いて行けるんやで」

「すごい! きれい!」

わたしは窓を開けて大きな声でそう言った。
お母さんにも悠にも早く見せてあげたい。きっと二人とも喜ぶはずだ。

「はるかと悠って名前は、どっちも『めちゃくちゃ大きい』っていう意味やねん」

運転しながら、お父さんが言う。

「学校なんて狭いところなんやから、合わへんかったら外に出たらええ。外には、もっともっと大きな世界が広がってるし、いつかはるかが心から好きやなって思える人や場所に出会えるはずやから」

わたしは、さっき訪れたばかりの家や、そこで出会った人たちのことを考えた。
そして、目の前の大きな琵琶湖。
なんでもできそうなワクワクする感じ、自分の好きなことを思い出す感じ。
そんな感覚、いつぶりだろう。

「あの家、住んでみたいな」

そう言うとお父さんは、「お父さんもや」と笑った。

 

 

それからしばらく経って、お母さんと悠も一緒に、家族4人でその家を訪れた。
前よりもだいぶ工事が進んでいて、わたしとお父さんは「おー!」と声をあげる。
初めて訪れたお母さんと悠に、「ここは玄関。広い土間になるんやって」「ここはリビングとか、キッチンとか」「ここは庭。シンボルツリーを植えんねんて」と説明していく。

「大工さんはな、玄関が広いしドアもガラス扉やから、お店もやれますよって言ってはった」

「おみせ!? やりたい!」

悠がびっくりして声をあげる。

「でもわたし、いきなりお店は無理やと思うねん」

「えーっ、ぼく、おみせがいい!」

「その前にな、ここでキャンプしてみいひん? 大工さん、ここでテントも張れますよって言ってはった」

それを聞いた大工さんは「まあ小さいテントに限るけど……でも秘密基地みたいでええよな」と笑う。

「でもほんま、小さなお店ができそうですね」

お母さんがそう言って、わたしと悠は顔を見合わせた。お母さんはデザイナーで、いろんな商品やグッズを作っているのだ。

「まあ、はるかの言う通りいきなりは無理なんやけど……夢が広がりますね

そう笑うお母さんに、庭の方にいたお父さんが声をかける。

「な、この庭、ええ感じやろ?」

お父さんもお母さんも、頭の中でフワーッと何かを想像しているのがわかった。
まるで、遊んでいる悠みたいにキラキラした目をしていたから。
きっとわたしもそんな目をしているだろう。

2階に上がると、みんなが同時に「おおー」と声を上げたので笑ってしまった。
大きな窓の向こうに、たっぷりと緑が見える。
「裏に和田神社っていう神社があって、そこの緑が見えるんですよ。秋は紅葉もきれいに見えるはず」

わたしは、秋になったその光景を想像する。お正月には、その和田神社に初詣に行くのかな。春には琵琶湖でキャンプして、夏には泳ぐこともできる。お父さんと庭の手入れも手伝ってみたいし、お母さんがいつかお店をする日だって来るかもしれない。
一年中、楽しみなことがありそうだった。

「ねっ、いい家やろ?」

そう言うと大人たちが一斉に笑った。

 

 

「お母さんと悠に、見せたいものがあるねん」

帰りの車に乗りこんだ時、お父さんに目配せをした。お父さんは頷いて、前と同じ道を通ってくれた。

「ほら、琵琶湖!」

お母さんと悠は歓声をあげる。わたしはうれしくなって、「すごいやろ!」と二人に言った。「すごい!」「きれい!」二人がそう言って、ますますわたしはうれしくなった。

 

「でもなぁ、はるか」

お母さんが、窓の外を見ながら言う。

「ここに引っ越すと、はるかは転校せなあかんねんで。それは大丈夫なん?」

運転しながら、お父さんが耳をすませているのがわかる。わたしは「うん、大丈夫」と答えた。

「だって、学校の外はすごく広いってわかったから」

 

春、夏、秋、冬。
いろんな時間が、この家で生まれるだろう。
友達とのあれこれよりも、今度いつキャンプするか、お店をするなら何を売るか、琵琶湖でちゃんと泳げるようになるのか、そんなことを考えるので忙しい。
そう言うと、お父さんは大きな声で笑った。

「はるかは名前の通り、スケールがでかいな」

お母さんは助手席で、またちょっと泣いている。

全開にした窓からビュンビュン風が吹いてきて、わたしは大きく息を吸い込んだ。

 

【fin】

 

【文章】土門蘭

 

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