妄想物件物語

MACHIYA

物語⑤ Uの場合 京都市左京区高野蓼原プロジェクト 第二話

今回の主人公
U氏 47歳 男性
職業:建築プロデューサー
UNITED ARROWSをこよなく愛す、47歳男性。
横浜在住。未婚だが、生活を共にするパートナーはいる。
最近になって、京都の町家に興味を持ち移住を考えている。

私は現在、関東で建築プロデューサーとして社会と建築家のパイプ役を生業としている47歳の男である。
京都の町家に興味を持ち、拠点を京都に構える計画を密かに立てているところ、地元に帰郷中のパートナーから良い物件が見つかったと連絡があり、早速週末を利用し一緒に観に行くことになった。

アップツーデートなレトロ感

案内してもらう物件は、京都市内北東部に当たる左京区だ。京都市内の中でも特に有名大学をはじめとした学校が多い上に、世界遺産として登録されている下鴨神社や銀閣寺など、有名な寺社仏閣を有しているため、観光客も多く国際性の高い整備されたエリアと言われている。
また、鴨川に近いので街中にいて自然と触れ合える環境もあり、公園など遊べる場所も多いため、ファミリー層にもおすすめの地域でもある。
通りに面した3軒並ぶ町屋の真ん中で、お隣の片方はレコードと雑貨を取り扱うお店である。この住宅街にひっそりとお洒落なお店が紛れ込む感じが、なんとも京都らしい風景だなぁとついニヤついてしまった。

中にはいってみると大人2人で住むにはちょうど良い広さ。昭和に建てられた古民家の要素が、早速インスピレーションを掻立てる。
この構造を生かしレトロな雰囲気も出しつつ、今の時代に吹く新しい感じも取り入れたい。早々にアイデアが頭の中を目紛しく馳け廻る。
幼馴染みの不動産屋さんの爽やかな笑顔に、気がつけば快諾していた。パートナーのお墨付きもあり、問題や不安は全くない。

横浜に戻り、京都で買った小川珈琲の煎りたてコーヒーをセットしながら、頭の中のアイデアを整理する。
まず、物件を見た時に1番に思いついたアイデアが、大きな銅板の玄関。しかも一枚物の引き戸はどうだろう。見た目のインパクトもさながら、他に類を見ない存在感に、使い込めば使い込むほど味が出てくるので、周りの風景と馴染みどんどん表情を変えていく。つまりは家主と同じ様に経年変化を楽しみ、一緒に成長していくようなイメージ。

あと、前の道路ギリギリまで建物があるので、内側に少し土間を設けて家の中に自転車を置けるスペースを確保するのはどうだろうか。
東向きの玄関なので、瓦をガラスにし太陽光を取り入れて明るさをプラスすれば、町家と言う両隣密接した閉ざされた空間も、優しい雰囲気に包まれ、更には開放感を同時に手に入れることができる。さらに真ん中には大きなキッチンを構えるので、余計な柱と壁は取っ払い仕切りを作らずワンルームにする事で、外観の印象より部屋自体広くも感じるようにできる。そう、京都文化のひとつでもある「間口は狭く、中広く」を意識してみる。

そして、気になっていた2階へ続く階段。そのままで利用をするけれど、一層のこと手摺は革を使用して、床は絨毯とタイルを組み合わせるのはどうだろうか。そうすれば和と洋、今っぽさとレトロ感を嫌味なく融合することが出来るのではないかと。私のイメージする京都らしさを、充分に表現出来ているように思う。つまり、他所からくる新しい風を受け入れながらも、土地柄の文化はそのままに、さらに繋げて次世代に受け継いでいく。

あらかじめ温めていたカップに注ぎ、一緒に買ったレインフォレスト・アライアンス認証 農園産カカオのハイカカオ70%チョコレートを口に頬張り、ゆっくりと目を閉じ華やかな香りとコク、上品な甘みを 感じながら想像する。
あぁ、もうここまでくると、楽しみしかない。パートナーも納得のオンリーワンでナンバーワンの我が家が仕上がりそうだ。